福島原発事故の影響をどう考えるか

                 環境と暮らしを考える集い  村上東

                                   lazycat@ipc.akita-u.ac.jp

 

低レベル被曝と内部被曝の考え方

まず、放射線については安全な値、これ以下ならば安全という値は、存在しない。この点がトリカブトや青酸カリといった化学的な毒物とは異なる。言い換えれば、閾値(しきい値)などない。少量なら少量の危険性がある。「健康に影響のない値だ」といった言い方は「(脱毛などの急性障害を引き起こさない、被曝量に応じて癌などの晩発性障害の危険性は生じるが、このコメントが時効になるまでは少なくとも)健康に影響のない値だ」と受け取るべきだろう。被曝量に応じて直線的に晩発性障害の危険性が増大するという考え方は国際放射線防護委員会 ( ICRP ) も認めている。

  (参照)

http://www.jca.apc.org/mihama/fukushima/fukushima_stmnt20110323.htm

http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1028

http://www.ustream.tv/recorded/13473951

国際放射線防護委員会の危険率算定モデルに関しては、一定以上の高レベル外部被曝については妥当であっても、低レベル被曝に対しての有効性が疑われている。その根拠は、(1)ICRP モデルの基礎である<放射線が染色体( DNA )に損傷を与える>という現象だけが細胞レベルの被曝なのではなく、負の電荷を帯びた酸素が細胞膜を破壊する低レベル長期被曝(ペトカウ効果)も考慮しなければならない。また、こうした低レベル被曝で組織に生じる現象が、癌発生のメカニズムに関わる点にも研究が及んでいる。(2)広島と長崎の生存者、原発や核兵器工場の周辺、チェルノブイリ以後の疫学調査で、 ICRP モデルでは評価も予測もできない事例が凄まじい数にのぼることが挙げられている。

  (参照)

Ralph Graeub, The Petkau Effect: The Devastating Effect of Nuclear Radiation on Human

Health and the Environment ( New York: Four Walls Eight Windows, 1992 )

肥田舜太郎/鎌仲ひとみ『内部被曝の脅威 ―原爆から劣化ウラン弾まで』(ちくま新書)

http://www.asyura2.com/07/genpatu4/msg/144.html  上記新書の要約

http://www.euradcom.org/

http://www.jca.apc.org/mihama/pamphlet/pamph_ecrr2_smry.htm

国際放射線防護委員会の危険率算定モデルに関する反省から生まれたのが「放射能の危険に関する欧州委員会 ( the European Committee on Radiation Risk, ECRR )」のモデルである。ICRP モデル(これは原発を運営する側にとって有利である)では拾えない被曝、晩発性障害の数値化を目指したものが ECRR モデルと言える。

  (参照)

http://www.euradcom.org/2010/2010recommendations.htm

http://www.euradcom.org/2011/ecrr2010.pdf

http://archives.shiminkagaku.org/archives/radiation_001.pdf

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No99/yamauchi041215.pdf

限られた情報しか手に入らないため、暫定的なものに留まるが、ECRR モデルを福島原発事故に適用したのが、クリス・バズビーの予測である。(以下に抄訳)

  (参照)

http://www.llrc.org/index.html

http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nuclear/articles/110319_ECRR_Risk_Model.html

http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-3104

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放射能の危険に関する欧州委員会 ( the European Committee on Radiation Risk, ECRR ) の学術部局長、クリス・バズビー博士が発表(3/30)した福島原発事故の影響に関する報告書から結論と勧告の部分を和訳します。

1.ECRR の危険評価モデル(危険率モデル)を、福島原発惨事から半径100キロメートルの範囲に住む3百万人に適用した。こうしたひとびとが一年間同じところに留まると仮定した場合、この方法で予測される癌増加数は今後50年で約20万人、そのうち10万人に今後10年で診断が出ることとなる。即座に退避した場合、増加数は著しく減少する。事故原発から100〜200キロメートルの範囲に暮らす7百万人について予測される癌増加数は、今後50年で22万人を若干超えるものとなり、今後10年でそのうち約10万人に症状が出る、とみられる。この予測は、ECRR の危険評価モデル、ならびにチェルノブイリ事故後のスェーデンにおける癌危険率に関する調査結果に基く。

2.国際放射線防護委員会 ( ICRP ) のモデルを用いた場合、半径100キロメートル範囲に住む人間の癌増加数は2838となる。従って、最終的な癌増加数が ECRR と ICRP の危険評価モデルの優劣を決める新たな試験となろう。

3.日本の文部科学省が公表したガンマ線量に基く計算値を使い、認知されている科学的な方法により、計測地点の地表汚染を逆算することができる。その結果が示すのは、国際原子力機関 ( IAEA ) の報告は汚染レベルを著しく過小評価していることである。

4.放射性同位体による土壌汚染の計測を早急に行い、注意を喚起してゆくことが求められる。

5.福島原発から100キロメートル圏内北西地域の住民は即座に退避し、この地域を危険区域(立ち入り禁止)とすることが求められる。

6.ICRP の危険評価モデルを使うことはやめて、すべての政治判断を「放射能の危険に関する欧州委員会」の勧告に従って下すべきである。www.euradcom.org

これは「2009レスボス宣言」に署名した、放射線の危険に関する著名な専門家の出した結論である。

7.故意に情報を一般市民から隠した者に対する捜査と法的制裁を行うべきである。

8.報道においてこの事故が健康に与える影響を矮小化して伝えた者に対する捜査と法的制裁を行うべきである。

Chris Busby, “The health outcome of the Fukushima catastrophe: Initial analysis from risk model of the European Committee on Radiation Risk ECRR.”  http://www.

fairewinds.com/sites/default/files/fukuhealthrept.pdf  ( 2 April, 2011 )

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チェルノブイリと福島が比較される際に知っていなければならないこと

1)世界保健機関(機構、WHO )と国際原子力機関( IAEA )の間には協定があり、前者は意のままに動かされている。ヨーロッパ、アメリカではこの協定に対し反対運動がある。

http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/may/28/who-nuclear-power-chernobyl

http://www.rense.com/general93/decon.htm

2)日本でよく使われるチェルノブイリ・フォーラムの資料や数値は上記のような情報統制の結果であり、実態から遠く離れている。信頼のおける包括的な報告は:

Alexey V. Yablokov, et al. Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment ( Annals of the New York Academy of Science Vol. 1181 ), ( Boston: Blackwell / the New York Academy of Science, 2009 ) 、他である。紹介記事は:

http://www.counterpunch.org/grossman04232010.html

その210頁に、「従って、1986年4月から2004年末までの期間にチェルノブイリ惨事による死者総数は985,000人と見積られる」とある。だから、海外でチェルノブイリと比較していても、日本は恐れる必要はない、というのは嘘だ。詳しくは京大原研の小出裕章先生のお話を: http://d.hatena.ne.jp/nocochan/20110325

また、事後処理にあたった方々の悲惨なその後については、日本語による情報は少ないものの、外国語では質量ともに絶句させられる。

http://www.belarusguide.com/chernobyl1/liquidators.htm

http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1068

http://www.youtube.com/watch?v=46mD8MAOORg

http://www.youtube.com/watch?v=mPsaj_o23E0&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=C9Lk3XWkA2Q&feature=related

まとめ:

 ・年齢の低いひとほど早く危険区域から退避すべき。

 ・低線量被曝、(通例長期にわたる)内部被曝に関しては情報の幅広い共有が望まれる。

 ・まだ限られた放射性物質(同位体)に関する情報しかないことも問題。

 ・生活空間ならびに一次産品に対する安全基準が緩いことのみならず、安全基準が設けられること自体に関しても考える必要があろう。

 ・環境に放出された(これからされる)放射性物質の総量がチェルノブイリを下回るとしても、健康被害と第一次産業被害については予断を許さない。

 ・私たちの孫の時代に至っても、解決はおろか、汚染事態の改善はない可能性あり。