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研究余話 : 神の魚

(ルーテル学院だより第85号より引用)


ルーテル学院大学  教 授.
(真瀬生物学研究会 特別会員)
藤井 英一
白神山地の麓 : 八峰町八森
八峰町
(秋田県山本郡八峰町)
神の魚ハタハタ : 鰰神の魚 ハタハタ
(ハタハタ科)

 秋田県西北端の八峰町八森は、秋田音頭で「秋田名物八森ハタハタ男鹿で男鹿ぶりコ」と唄われるハタハタ漁で著名な漁師町。11月下旬、雷光と雷鳴を轟かさせながら湿った雪が降り続き、町の道路は解けた雪と泥でぐちゃぐちゃとなる。
 これを八森弁でハタハタけんど(街道)というが、まさにこの時、ハタハタは、日本海の大陸棚斜面の深みから、大群をなして沿岸の藻場へと産卵にやってくる。
 ハタハタの接岸と漁の始まりを告げるのが冬の神鳴りで、漢字「鰰(はたはた)」の由来でもある。漁がある約半月の間は、寝ても覚めてもハタハタ一色。町の漁師はここで1年間分の稼ぎを得る。やはり神の魚である。

 採りたての鰰の味は、感動もの。醤油で煮て良し、味噌かやきにして良し、塩焼きにして良し。頭を外し背骨をさっと引き抜き、腹いっぱいに膨れた卵の塊りにかぶりつく。とろろ芋のようにねばねばして糸を引く卵は、のどにつかえそうになることもある。ぷりぷりした食感で、味は鶏卵のよう。次に身を一口かふたくちでしっぽまで食べる。この時期に獲れたものはヒレもやわらかく気にせず食べられる。適度に引き締った肉は、口の中に新鮮な薫りと余韻を残して滑るようにのどの奥えと消えてゆく。う〜ん、満足。

 さて、八森町中央を流れる真瀬川の河口域には、ホンダワラ類が主体の海藻群落がある。ここは二ツ森と呼ばれる海の森で、最大のハタハタ漁場となっている。真瀬川の上流を辿っていくと、そこは世界自然遺産白神山地の一角、真瀬岳、二ツ森がある。この川の栄養分豊かな水は、ブナ、ダケカンバ、カツラ、サワグルミ、アカイタヤ、ミズナラなどの落葉性広葉樹の森から供給される。沿岸の海藻とそこを産卵場として稚魚の発育場として利用しているハタハタは、豊かな山の森があって初めて生きていけるのである。
 この地域の環境を保全し生物多様性を豊かにすることが私の研究テーマである。

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